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東京地方裁判所 昭和29年(行)58号 判決 1962年5月23日

東京都荒川区南千住町六丁目二一番地

原告(昭和二九年(行)第五八号)医療法人財団

磯医院

右代表者理事

磯源也

東京都中野区新井町五四九番地

原告(同)医療法人財団

織本外科病院

右代表者理事

織本一雄

東京都台東区上根岸町七番地

原告(同)医療法人財団

塩田会

右代表者理事

塩田輝重

東京都武蔵野市吉祥寺二、七三〇番地

原告(昭和二九年(行)第五八号、昭和三三年(行)第二八号)医療法人財団

緑生会

右代表者理事

水口清司

東京都太田区仲六郷二丁目九番地

原告(昭和二九年(行)第五八号)医療法人財団

同生会

右代表者理事

小川昇

右原告ら訴訟代理人弁護士

高木右門

小沢茂

高橋銀治

佐藤義弥

池田輝孝

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番地

被告(昭和二九年(行)第五八号)

右代表者法務大臣

植木庚子郎

武蔵野市吉祥寺二八六四番地

被告(昭和三三年(行)第二八号)武蔵野税務署長

村田啓一

右被告両名指定代理人法務省訟務局付検事

加藤宏

被告国指定代理人法務事務官

那須輝雄

被告武蔵野税務署長指定代理人大蔵事務官

小松培一郎

外山喜一

右当事者間の昭和二九年(行)第五八号租税債務不存在確認請求昭和三三年行第二八号課税処分取消請求併合事件について当裁判所は次のとおり中間判決する。

主文

原告らの主張のうち相続税法第六六条第四項が憲法に違反するとの主張、医療法に定める医療法人財団は相続税法第六六条第四項に規定する「公益を目的とする事業を行う法人」に該当しないとの主張及び医療法に定める医療法人財団に対する財産の贈与又は遺贈に因り当該贈与者、又は遺贈者の親族その他これらの者と相続税法第六四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合はありえないとの主張はいずれも理由がない。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告ら訴訟代理人は「原告医療法人財団磯医院は昭和二七年七月二三日贈与を受けた資産の総額二五五万二、四八六円について被告国に対して相続税法第六六条第四項による相続税の納税義務が存在しないことを確認する。原告医療法人財団織本外科病院は昭和二七年九月三〇日贈与を受けた資産の総額三七六万一七〇円について被告国に対して同条第四項による相続税の納税義務が存在しないことを確認する。原告医療法人財団塩田会は昭和二七年一二月一〇日贈与を受けた資産の総額四五四万七〇七八円について被告国に対して同条第四項による相続税の納税義務が存在しないことを確認する。原告医療法人財団緑生会は昭和二八年三月二三日贈与を受けた資産の総額三七八万九四八円五銭について被告国に対して同条第四項による贈与税の納税義務が存在しないことを確認する。同原告に対して被告武蔵野税務署長が昭和三二年八月二〇日なした贈与税金四三万五、三一〇円の課税処分はこれを取消す。原告医療法人財団同生会は昭和二九年二月二日贈与を受けた資産の総額二二三万六、六〇〇円について被告国に対して同条第四項による贈与税の納税義務が存在しないことを確認する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求めた。

二、被告ら指定代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告らの請求原因及び被告らの答弁に対する反論

一、(原告らの性格と被告らの課税処分等)

(一)  原告らはいずれも医療法第三九条第一項に基く財団形態の医療法人(以下単に財団たる医療法人という)であり、その設立年月日及び資産総額は別紙目録記載のとおりである。

(二)  被告武蔵野税務署長は昭和三二年八月二〇日原告医療法人財団緑生会(以下原告緑生会という。なお他の原告らの名称についても医療法人財団の語を省略する)に対して贈与税四三万五、三一〇円の課税処分をして同原告に通知したので、同原告は同年九月五日同被告に対し再調査請求をしたところ、同被告は同年一〇月九日右再調査請求を棄却し同原告に通知した。そこで同原告は同月二二日東京国税局長に対して審査請求をしたが、右局長は、同年一二月一三日右審査請求を棄却し同原告に通知した。

(三)  荒川税務署長は、原告磯医院に対し同年八月二〇日昭和二七年分相続税として金七〇万一、〇八〇円の課税処分をし、同月三一日金四万二、七六〇円を減額する更正処分(これにより結局相続税額金六五万八、三二〇円の課税となる)をした。

(四)  中野税務署長は、原告織本外科病院に対し、同月二〇日昭和二七年分相続税として金八六万三、一二〇円及び金一二万七、〇〇〇円の二個の課税処分をし、更に同年一〇月二六日昭和二七年分相続税として金一二万七、〇〇〇円を増額する更正処分をするとともに、先になされた金一二万七、〇〇〇円の課税処分を取り消す旨の更正処分(これにより結局相続税額金九九万一二〇円の課税となる)をした。

(五)  下谷税務署長は原告塩田会に対し昭和二七年分相続税として金一三三万六、〇七〇円の課税処分をし、同年一〇月二三日同原告に通知した。

(六)  蒲田税務署長は、原告同生会に対し昭和二九年分贈与税として金五八万三、九五〇円の課税処分をし、同年八月二一日同原告に通知した。

二、(課税処分等の違法)

被告武蔵野税務署長の原告緑生会に対する前記課税処分は次の理由により違法であり、原告磯医院、同織本外科病院、同塩田会、同同生会に対してなされた前記課税処分更正処分もまた右と同じ理由により当然無効であるから、右原告らはいずれも相続税または贈与税の納税義務を負担していない。

(一)  (法第六六条第四項は憲法に違反し無効である。)

本件課税処分等は相続税法(以下たんに法という)第六六条第四項の規定に基き原告らに納税義務ありとしてなされたものである。しかし、憲法は租税法律主義の原則をとつているから、いかなる個人または法人に納税の義務があるかは、各租税法規に疑問の余地のない程明白に規定されなければならない。一般に各租税法規には実際そのように規定されている。それは例えば法第六六条第四項には「法人税法第五条第一項第一号又は第三号に掲げる法人」と規定されているが法人税法第五条第一項第一号に掲げる法人とは「日本赤十字社、商工会議所及び日本商工会議所、民法第三十四条の規定により設立した法人、社会福祉法人、宗教法人並びに学校法人及び私立学校法第六十四条第四項により設立した法人」であり、同条同項第三号に掲げる法人とは「法人たる労働組合及び国家公務員法又は地方公務員法に基く法人たる国家公務員又は地方公務員の団体」であつて、それらがいかなる法人であるかは疑問の余地なき程明白である。租税法律主義はこのように納税の義務ある主体を疑問の余地なき程明白に規定することを要請しているのである。

しかるに法第六六条第四項に規定する「公益を目的とする事業を行う法人」という表現は、「公益法人」というのでないことはもちろんであり、また「公益を目的とする事業を行う法人」という実定法上の熟語も存在しないし、且つ法第六六条には「政令で定める」「公益を目的とする事業を行う法人」と規定されていないから、いかなる法人が「公益を目的とする事業を行う法人」であるかを確定するに由がない。

もしこの法条を適用しようとするならば、如何なる法人が「公益を目的とする事業を行う法人」であるかを税務担当の行政官の裁量によつて確定する以外に方法がない。納税の義務ある主体を税務担当の行政官の裁量を介入せしめなければ確定し得ないような租税法規は、租税法律主義をじゆうりんするものであつて、憲法第三〇条、第八四条の規定に違反し無効である。

(二)  (原告らは法第六六条第四項に規定する法人ではない)

(1) 法第六六条第四項に規定する「公益を目的とする事業を行う法人」がいかなるものであるにせよ、原告らがこの法人に該当するという法律根拠はない。

医療法人は財団又は社団の形式をとつているので、民法上の公益法人又はそれに類似する公益的な法人ではないかとの錯覚をもちやすいのであるが、これはまた形式が公益法人と類似しているだけであつて、実質は営利を目的とする病院がそのまま法人格を取得したものに過ぎない。

医療法人が財団又は社団の形式をとつた理由は、医療法人制度制定の歴史に由来する。その歴史を略述すれば次の通りである。

(イ) 敗戦後民主々義の昂揚がみられ、国民の生活の向上、人権の保障、政治的権利の拡張が重視せられたが、それとともに国民の健康の保持増進ということも決して無視せられたものではなかつた。ところが旧陸海軍病院を引継いだ国営の医療機関は国家の社会保障費の予算不足から国民医療保障問題に暗い影を投げていた。

この解決はひとえに民間医療機関を整備することにかかつていると政府当局者に痛感されていた。そのためには私人による病院の建設とその保持育成を促進するためなんらかの方法によつて、「資金の蒐集及び集積」と「事業の永続性」を図る措置を講ずることが緊要と考えられた。それには私人の病院に法人格を附与する途を開くことが必要であるが、すべての病院が民法上の公益法人としての資格を取得することはその経営のあり方からできないことがあるし、さりとて商法上の会社とすることも医療に対する伝統的な考え方から芳しくないので、医療法を改正して容易に法人格を取得し得ることにしたのが医療法人制度である。昭和二十五年第七臨時国会に於て医療法の一部が改正され第四章として医療法人の制度が制定された。

(ロ) 由来病院経営者は、一般に所得は主としてこれを診療施設の整備改善に充当することを念願する生態を持つている結果、一旦経営者である院長が死亡するとその遺族は他に資産がないため相続税の納税に困惑し、特にその後継者がない場合には、莫大な相続税のために病院を手離さざるを得ない結果となる事例が多い。かくて数十年間営々として築き上げた診療施設が、相続税に物納され、公売されて、全然目的の異なつた旅館や料理屋等に変貌してしまう運命におかれている。このような国民経済並に国民医療保障上における損失を防止するために制定されたのが財団たる医療法人である。財団医療法人は、事業目的進行に必要なる診療施設が寄附提供されることによつて成立する。寄附者は寄附の目的物について何等の処分権もないし、たとえ寄附者が法人の理事者となつても、その寄附財産の多寡によつて、理事会に於ける発言権に優劣の差はない。寄附者が死亡した場合に寄附者の親族等は当該寄附財産に対して処分権並に管理権を有するものではなく、また必ずしも理事者となることを保証されているものでもない。また寄附者が死亡した場合は診療施設について相続税が課税されないから「医療事業の永続性」が確保されるわけである。

(ハ) 医療法の要求する規格に相応する近代的病院の建設は個人の力では困難であるため、当時数人共同して資金を持寄り共同して病院を経営しようとの機運があつた。医師の間に特にこのような要求が強かつた。これらの人々のために前記の財団組織は不適当であるから、共同出資に応ずる社団たる医療法人制度が設けられた。法人であるから経理は分明となり合理化され出資者も安心できたわけである。財団と異り社団の場合に出資者は持分を有し、持分が議決権行使の基準となり、出資者が死亡した場合はその遺族が持分を相続し、診療施設について相続税が課税されることはない。かくて「資金蒐集」「事業の永続性」が確保されるわけである。

医療法人が財団又は社団の形式をとつているのは、右に述べた制定の歴史に由来するものであつて、医療事業の公益性によるものではない。医療法人はその目的たる事業が法律上公益性を有する如く、規整されているものではないから「公益を目的とする事業を行う法人」と解釈することはできない。

(2) 医療法人が法第六六条に規定する「公益を目的とする事業を行う法人」に該当するかどうかは税法の立場から検討すべきである。

(イ) 所得税法の規定によれば、同法は医業を営利事業としていることは明らかであるが、右医療事業が単に法人形態に変ることによつてその目的とする事業が法律上公益性を附与されることはありえざるところである。

(ロ) 法人税法は、法人を

A 非課税法人(法人税法第四条列記)

B 公益法人等(同法第五条第一項列記。その営む収益事業より生じた所得には課税される)

C 特殊法人(収益法人中の特殊なる法人、同法第九条第六項列記)

D 一般の法人(右に挙げた以外の収益法人)の四種に分類している。そして医療法人は、右Dに挙げた一般の法人に属するものとされていて、法人税、所得税、資産再評価税、固定資産税、住民税、登録税等すべて営利法人と同様に課税されているのである。

被告らの主張によれば、医療法人を法人税法上では営利法人として取扱い、相続税法上では公益法人類似の「公益を目的とする事業を行う法人」として取扱うというのである。その主張の通りであるとするならば租税体系上の矛盾であり、はなはだ得手勝手な暴論である。

(ハ) 個人の開業医が医療施設を相続し又は贈与された場合は、取得した財産が医療事業の用に供せられることが確実であつても、医療事業は公益を目的とする事業でないとして、法第一二条第一項第三号、法第二一条の三第一項第三号は適用されず相続税又は贈与税を課せられる。ところが被告らの主張によれば原告らの場合には法第六六条第四項によりその医療事業は公益を目的とする事業であるとして、個人とみなされて相続税または贈与税が課せられる。ひとしく相続税または贈与税が課せられるわけであるが、課税される理由は全く相反する。すなわち、個人の開業医の場合には医療事業は公益を目的とする事業でないというのであり、原告らの場合には医療事業は公益を目的とする事業であるというのである。これは完全な背理である。法律の分野でこのような背理が許される筈はない。原告らが「公益を目的とする事業を行う法人」であるという被告らの主張が誤りであることは明白である。

右の通りであるから、原告らが「公益を目的とする事業を行う法人」に該当するものとして相続税法第六六条第四項を適用し相続税又は贈与税を賦課することは違法無効である。

(三)  「原告ら医療法人に対してなされた寄附行為による財産の贈与が、当該贈与者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる」ということは理論上あり得ない。

(1) 前述のように、医療法人は「医療事業の永続性」を図るために、特に立案制定された法人制度であつて、寄附者の死亡による相続税、または贈与税が賦課されないことを建前とすることが立法の目的であつた。したがつて、医療法人に対して相続税または贈与税が賦課されないのは当然であり、寄附者の親族その他これらの者と特別な関係ある者の相続税、又は贈与税を不当に減少する結果となると主張するが如きは、医療法人制度の立法趣旨を無視した謬論である。

(2) 被告らは法第六六条第四項の規定は、相続税又は贈与税の負担を回避することを防止して租税負担の公平を図るものであると主張する。しかし租税回避の結果を規定する規定は税法上の行政罰(法第五一条乃至第五四条)及び刑事罰(法第六八条乃至第七一条及び第七三条)の規定があり、この規定によつて足るものと解すべきである。

(3) 被告らは租税回避の結果が生ずるか否かの問題は、医療法人に対する贈与者遺贈者の親族又は特別関係者の私的支配が行われているか否かが基準となると主張しているが、医療法人が親族又は特別関係者によつて私的支配されることは絶対にない。医療法人は理事者によつて管理運営されているものである。

(4) 被告らは寄附財産が最終的に贈与者遺贈者の親族その他の特別関係者に帰属することとなると認められると主張しているが、かかる蓋然性は存在しない。仮りにその蓋然性があるとしても、それは未来における事物及び価値に関する事柄であり、現在においてはこれを特定するに由ないところである。あらかじめ理事会における特定の決議と監督官庁の認可が必ず得られることを予測してはじめていいうるが如き主張には全く具体性が存在しない。しかし「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる」ということは現在の問題である。右のような全く具体性のない事項を現実の問題として、扱うことは不合理であり、無意味である。

第三、被告らの答弁及び主張

一、請求原因に対する認否

(一)  原告ら主張の第二の一(一)の事実のうち、その資産総額の点は知らないが、その余の事実は認める。

(二)  第二の一(二)ないし(六)の事実は認める。

(三)  第二の二の事実のうち本件課税処分等がいずれも法第六六条第四項の規定に基いて原告らに納税義務ありとしてなされたものであることは認めるが、その余の主張は争う。

二、本件課税処分等は次の理由により適法であるから原告らは相続税もしくは贈与税の納税義務を負担するものといわなければならない。

(一)  法第六六条第四項は憲法に違反しない。

原告らは、法第六六条第四項にいう「公益を目的とする事業を行う法人」とはいかなる法人であるか不明確であるから、同条項は憲法第三〇条第八四条に違反して無効である旨主張する。

しかし、憲法第三〇条は、単に国民の納税義務を宣言するにとどまる規定であるから論外であり、同法第八四条は、いわゆる租税法律主義の原則を採用しているのであるが、租税法律主義は、法律に根拠なく租税が賦課徴収されることのないことを保障しているのであつて、原告ら主張のように、納税義務者とされるものは実定法上の熟語を借り来らなければならないとされているわけでもなく、納税義務者確定のために法律を解釈することが禁止されているわけではない。法第六六条第四項に、本項により納税義務を負担する法人は、「法人税法第五条第一項第一号又は第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行う法人」であることを明定しており、そこになんら疑問をさしはさむ余地もない。しかして、「公益を目的とする事業を行う法人」とは、いかなる法人であるかは既に客観的に定まつており、具体的にいかなる法人が、これにあたるかは、単に法律解釈の問題に過ぎない。したがつて、医療法人が同条項にあたるかどうかについて、税務官庁の判断すなわち法律解釈がなされるからといつて、ただちに憲法第八四条の規定に違反するものではなく、相続税法の規定が無効となるいわれもない。

(二)  医療法人は、法第六六条第四項にいう「公益を目的とする事業を行う法人」に該当すると解すべきである。

(1) 法第六六条第四項の立法趣旨

相続税、贈与税は原則として個人にのみ課せられ、法人は課税の対象とされていないが、特に法第六六条第四項で法人に課税したのは、法人に対し財産の贈与、遺贈がなされた場合、当該法人が贈与者等の親族その他の持別の利害関係者の個人的支配を受けており、これらの者が法人に対し贈与等のなされた財産から生ずる収益を事実上享受し、又は当該財産が最終的にはこれらの者に帰属するような状況にあるにもかかわらず、贈与等の相手方が個人でないという理由で贈与税、相続税の課税が行なわれないとすると、結局贈与等に伴う贈与税、相続税の回避を許す結果となり、租税負担の公平を欠くこととなる。右の条項はこのような結果の発生を規制するためもうけられた規定である。ところで、営利法人もしくは出資持分の定めのある社団については、右条項で予定している不合理な結果を生ずる余地はなく、右条項により課税する必要のあるのは、私的支配が可能であり、かつ、財団又は出資持分の定めのない社団の形態をとりうる法人に限られ、かかる法人を規定する方法として「法人税法第五条第一項第一号は第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行う法人」と定めたのである。

(2) 医療法人制度創設の趣旨

医療法は、主として医療機関、施設等に対する法的規制を行い、私的医療機関を整備充実して近代的医療制度の確立を目指したものであるが、私人に多額の資金を必要とする近代的医療施設の建設維持を期待することはきわめて困難であり、経営主体が法人格を取得して資金の集積を図り、これによつて病院等の経営等を行うことも、法人格取得の困難性から容易に実現しえないため、医療法制定の趣旨も没きやくされる結果となる有様であつた。そこで、私人による病院建設維持を促進するためには医療事業を行う人的または財産的集合体に対し、法人格取得を容易にして共同出資による資金集積を図ることを可能ならしめる必要が痛感されるに至り、昭和二五年医療法を一部改正し、あらたに医療法人なる特殊の法人制度を創設し、医療事業の非営利性を損うことなしに、医療事業の経営主体に対して資金集積の方途を与え、近代的医療施設の建設維持を容易ならしめることとなつたものである。

(3) 医療法人の法的性格

右医療法人制度創設の趣旨から明らかであるように、医療事業は、本来公衆の日常生活に欠くことのできない高度の公共性を帯びた事業であり、医療法人は非営利的な性格をもつ「公益を目的とする事業を行う法人」と解すべきである。

このことは医療法第五四条により医療法人は剰余金の配当を禁止され、また設立、定款、寄附行為の変更等につき行政庁の認可を必要とし(同法第四四条、第四五条、第五〇条)、その運営等についても行政庁への決算の届出や業務会計の報告を徴され、その監督のもとにおかれており(同法第五一条、第六三条)、業務停止や設立認可の取消も受け(同法第六四条、第六六条)、解散、合併、残余財産の処分等についても行政庁の認可にかけられている(同法第五五条、第五六条)など、民法上の公益法人と同等あるいはそれ以上の公法的規制を受けていることから考えても明らかである。

(4) 原告らは医療法人は、「資金の蒐集及び集積」と「事業の永続性」をはかる目的で制定されたもので、医療行為の公益性とは関係ないと主張する。しかしもし右の目的のためのみであるとするたらば、商法上の会社制度を利用すれば足ることなのであつて、社団及び財団形式の医療法人制度を新設する必要は全くない。医療法人が特に必要とされるのは、商法上の会社とすることが、医療に対する伝統的な考え方から芳しくないからにほかならないのである。換言すれば、医療行為は本来その性質上営利の目的をもつてなさるべきものではないのである。

(5) 原告らは、医療事業が所得税及び法人税法上一般の収益事業と同列に置かれている点をとらえて医療法人は「公益を目的とする事業を行う法人」ではないと主張する。しかし、医療行為は公益目的、奉仕することをその本質的要素としているのであるが、このことと医療行為が、法税上いかに評価されているかとは別個の問題である。医療行為自体が一定の対価をえてなされる以上、収益の発生は当然の帰結であつて、これが所得税及び法人税の課税対象とされるべきことは、一般の収益事業に対する課税政策となんら異なるべき根拠を見出すことはできない。税法は医療事業を収益事業としているけれども、医療事業を営利事業とはしていない。したがつて、医療法人が法人税法上収益事業をなす法人と類似の取扱をされているの故をもつて、医療法人が営利法人であると称することをえないのである。

(三)  原告らは「財団たる医療法人の設立のために財産を提供し、又はこれらの法人に財産を贈与遺贈することにより贈与者または遺贈者の親族その他これらの者と法第六四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合」の如き事態は理論上ありえないと主張するが、右主張は誤つている。すなわち

(1) 法第六六条第四項により課税されるのは、医療法人に対して財産の贈与、遺贈がなされた場合、当該法人が贈与者等の親族その他特別の利害関係者の個人的支配をうけており、贈与者又はこれらの者が、法人に対して贈与、等がなされた財産の利用等によつて生ずる収益を事実上享受し、又は当該財産が最終的にはこれらの者に帰属するような状況にあり、形式上は、その財産が法人に帰属していながら、実質的には、なお個人の支配のもとにおかれると同視されるような状態にあることが必要とされ、かかる要件事実を充足しているかどうかは、まさに事実関係を検討しなければ判明しえないことがらである。そしてその結果仮りに医療法人に対し相続税又は贈与税が課せられるとしても、それは医療法人制度の目的となんら矛盾するものではない。

(2) 原告らは、租税回避の結果を規正する規定は税法上の行政罰及び刑事罰の規定で足るから法第六六条第四項の規定は不要であるかの如く主張する。しかし法第六六条第四項の規定は一定の事実関係の下に一定の者に相続税、贈与税を負担させる旨の租税法律関係設定の規定であつて、行政罰ないし刑事罰とはその目的を全くことにするものである。のみならず、原告らが指摘する法第五一条ないし第五四条は、利子税及び加算税に関する規定であり、いわゆる本税に対する附帯税の賦課を規定しているのであるから、これらの規定のみで、相続税、贈与税そのものについての租税負担の公平が図られるはずはなく、また刑事罰にしても、租税債務の存在が前提となつているのであるから、租税債務負担の規定なくして刑事罰で租税回避の結果を規正するということはできるはずもない。

(3) 原告らは、医療法人が、いわゆる特別関係者らによつて私的支配を受けることはない旨主張するが、前記のような事実関係に鑑みれば、私的支配の事実はまさに存在するものといわなければならない。

(4) 原告らは、寄附財産はいわゆる特別関孫者らに帰属する可能性はなく、かりにその可能性があるとしても未来の問題であつて、現在の問題として取り扱うことは不当であると主張する。しかし被告らが寄附財産がいわゆる特別関係者らに帰属する可能性があると主張するのは、結局法第六六条第四項所定の要件事実が法人に対する財産提供当時充足されていることの一つの根拠と認められるものであると主張するのであつて、現在の事項と未来の事項とを混同して主張しているのではない。そして財産提供当時の事情その他法人運営の状況からすれば、右可能性が十分認められるとするのが、被告らの主張なのであるから、その事実の有無が、訴訟上明らかにされる必要があるのである。

第四、証拠関係

一、原告ら訴訟代理人は、甲第一、第二号証、第三号証の一ないし六、第四、第五号証、第六号証の一ないし六、第七号証の一ないし五を提出し、乙号各証の認否はしなかつた。

一、被告ら指定代理人は、乙第一、第二号証、第三、第四号証の各一ないし三を提出し、甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

第一、当事者間に争いのない事実

原告らがいずれも医療法第三九条第一項に基き別紙目録記載の日に設立された財団形態の医療法人であること、被告武蔵野税務署長は、昭和三二年八月二〇日原告緑生会に対して贈与税四三万五、三一〇円の課税処分をして同原告に通知したので、同原告は同年九月五日同被告に対し再調査の請求をしたところ、同被告は同年一〇月九日右再調査請求を棄却し、同原告に通知したこと、よつて同原告は同月二二日東京国税局長に対して審査請求をしたが、右局長は同年一二月一三日右審査請求を棄却し同原告に通知したこと、荒川税務署長は、原告磯医院に対し同年八月二〇日昭和二七年分相続税として金七〇万一、〇八〇円の課税処分をし、同月三一日金四万二、七六〇円を減額する更正処分(これにより結局相続税額金六五万八、三二〇円の課税となる)をしたこと、中野税務署長は、原告織本外科病院に対し、同月二〇日昭和二七年分相続税として金八六万三、一二〇円及び金一二万七、〇〇〇円の二個の課税処分をし、更に同年一〇月二六日昭和二七年分相続税として金一二万七、〇〇〇円を増額する更正処分をするとともに、先になされた金一二万七、〇〇〇円の課税処分を取り消す旨の更正処分(これにより結局相続税金額九九万一二〇円の課税となる)をしたこと、下谷税務署長は、原告塩田会に対し昭和二七年分相続税として金一三三万六、〇七〇円の課税処分をし、同年一〇月二三日同原告に通知したこと、蒲田税務署長は、原告同生会に対し昭和二九年分贈与税として金五八万三、九五〇円の課税処分をし、同年八月二一日同原告に通知したこと、本件課税処分等が法第六六条第四項の規定に基き、原告らに納税義務ありとしてなされたことはいずれも当事者間に争いがない。

第二本件課税処分の適否

一、(法第六六条第四項は憲法に違反するか)

原告らは税法において納税義務者が誰であるかは疑問の余地なき程明白に規定されていなければならないと解すべきところ、本件課税処分等の根拠とされた法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」という規定は、はなはだ明確を欠き、その適用につき行政官の裁量を介入せしめることゝなるので憲法第三〇条、第八四条の租税法律主義の原則に違反すると主張する。

よつて判断するに、租税法律主義は、課税要件を法定することにより行政庁の恣意的な徴税を排除し、国民の財産的利益が侵害されないようにするためのものであつて、近代諸国の憲法の多くが重要な内容の一つに数えているものである。わが憲法第八四条も「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定し、租税法律主義の原則を宣明している。すなわちこれにより法律に根拠のない慣習法や命令による租税の賦課は許されないし、租税の種類、課税の根拠、納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の課税要件に関する規定その他租税債務の変更消滅に関する実体規定のみならず、納税の時期、方式等に関する手続的規定についても、正当な立法手続を経た法律の定めを要すると解するのが相当である。したがつて、租税法律主義の原則から課税要件はできるだけ詳細かつ網羅的に規定せられると共に、その内容の明確化が要請されるわけである。しかるに他方税法の対象とする社会経済生活上の事象は、千差万別であり、生成変動も免れないのであるから、それらの一切を法律により一義的に規定しつくすことはとうてい困難であり、その間おのずから一定の制約あることを免れないのである(この場合右目的に奉仕するため法律自体が合理的に限界づけられた範囲内においてその細目の表示を命令に委任し、これにより法律を補充することも許されるであろうが、事は立法技術の問題にすぎない。)およそ法律の規定を構成することばはすべて多かれ少なかれ一定の内包を有する意義をもつものであり、税法においても例外ではないから、その具体的適用にあたつて規定のもつ意味内容を解釈、認識することは不可避であり、また当然に許さるべきものであつて、租税に関する法律がその合理的な解釈により法律の定めるところの意味内容を客観的に認識し得る如く規定してあるかぎり、それによつて具体的な租税の賦課徴収を行うことはなんら前記租税法律主義に反するものではないのである。

そこで法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」という規定の意味内容が解釈によつて把握し得るものかどうかについて検討するに、なるほど実定法上「公益を目的とする事業を行う法人」という用語は必ずしも一般化されていないから、右概念の内容を類型的に把握することは困難であるが、「公益」及び「法人」の概念についてはすでになんぴとにも通ずる一応の解釈が確立されているから、この面から前記規定の内容はおのずから一定の限界を劃し得、他面同条が租税負担の公平をはかるために規定せられたものであることはその規定自体からみやすいところであるから、かゝる目的に照らして一定の方向を選別し得るものというべく、ひつきよう「公益を目的とする事業を行う法人」の概念は同条の解釈によつて、おのずから客観化されうるものというべく、右の確定が行政庁の自由裁量に委ねられているものとはとうてい解することができない。したがつて法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」との規定は、課税要件法定の要請をみたしているものというべく、この規定自体が憲法第三〇条、第八四条に違反するという原告らの主張は理由がない。

二、(財団たる医療法人は公益を目的とする事業を行う法人か)

原告らは、財団たる医療法人は法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」に該当しないと主張する。よつて判断するに、

(一)  まず同条の解釈にはいるに先立ち、一般に財産の無償取得が行なわれた場合の課税関係について一べつしておく。財産の無償取得が行なわれた場合、財産移転の形態としては、(1)法人が法人から無償取得する場合、(2)法人が個人から無償取得する場合、(3)個人が法人から無償取得する場合、(4)個人が個人から無償取得する場合の四つの形が考えられるが、この場合法第六六条第四項の場合を除いて相続税又は贈与税の対象となるのは(4)の個人が個人から取得する場合であることは明らかである(相続税法第一条、第一条の二、第三条の三)。すなわちまず(1)の法人が法人から財産の無償取得をした場合と(2)の法人が個人から財産の無償取得をした場合についてみるに、無償取得を受けた法人が非課税法人(法人税法第四条)、公益法人等(法人税法第五条第一項)以外の法人であるときは一般にこの財産の無償取得は一の益金とみるべきものであるからその法人については、財産の無償取得による所得につき法人税が課せられ、その法人が公益法人等であるときは、それが収益事業から生じた所得にあたる場合についてのみ法人税が課税され、その他の所得については課税されない(法人税法第五条第一項)。右(3)の個人が法人から財産を無償取得した場合、一般にこの財産取得はいわゆる一時所得としてこれによつて生じた所得に対しては所得税が課せられ(所得税法第九条第九号)、その反面贈与税は課せられない(相続税法第二一条の三第一項第三号)。(4)の個人の個人からの財産の無償取得に対しては前記のとおり、相続税又は贈与税が課せられるが、その反面右財産の取得はその性質上一時所得であること(3)の場合と同様であるに拘らず、これについて所得税は課せられない(所得税法第六条第一二号)。このように財産の無償取得が行なわれた場合、税法は一ようにこれを課税の原因として把え、その移転の形態にしたがいそれぞれ一個の課税原因につきなんらかの課税権を行使するを原則としていることが認められ、このことをあらかじめ考慮にいれておく必要がある。

(二)  ところで法第六六条第四項は、同項所定の一定の法人に対し財産の贈与、遺贈があつた場合一般には法人に対する財産の無償譲渡として当該法人について相続税又は贈与税が課せられないたてまえからして、これによつて相続税、贈与税負担の軽減を図ることのあるべきことを予想し、これを防止するため、右の法人に対し財産の無償移転があつたときは、これにより相続税または贈与税の負担が不当に軽減されるおそれがあると認められる場合に限り、その法人を個人とみなし相続税または贈与税を課することを目的とする規定であることは同条の解釈上疑をいれないところである。「公益を目的とする事業を行う法人」の意義を定めるにあたつても、いかなる法人がこれにあたるかはそのことばのもつ通常の意義に即するほか右に述べた同条の立法趣旨に照らし解釈しなければならないことはさきに述べたとおりである。

そこでまずこの立法趣旨の側から考察するに、いつたいいかなる形態の法人につき同条にいう相続税、贈与税回避の問題が生じうるのであろうか。それについてはまず、出資持分の定めのある法人については同条が適用される余地はないと解するのが相当である。なんとなれば、財産の提供により出資持分の定めのある法人を設立した場合は、あたかも現物出資により株式会社、有限会社の設立があつたと同様一の資本の払込であり、法人税の対象にはならず、出資者の提供した財産は、出資持分に変形するのみで、それ自体財産の無償移転ともいうを得ないのみでなく、自己の持分に対する支配権はその出資者にあるから、出資後その出資持分を他に贈与するか又は相続がなされたときをとらえ贈与税又は相続税を課税すれば足りるものであり、もし出資者が自己の出資に相応する持分を全部取得することなく、第三者をして取得せしめた場合にはその部分につき右第三者に財産の無償取得があつたものとして課税すればよいからである。またすでに設立された出資持分の定めのある法人に対し第三者が財産を贈与または遺贈した場合において、それによつてあらたに持分を生じたときは右の場合と同様であり、あらたに持分を生ずることなく従前の出資持分の価額が増加したにとどまるときは、これをもつてその贈与等があつた時において、その出資持分を有する者が実質上その増加した部分に相当する金額の財産を法人に対し贈与又は遺贈した者から無償取得したものと解するか(昭和二八年一二月二五日直資一四一国税庁長官通達参照)少くとも右増価した持分につき贈与、相続等のあつたとき自然右増価部分についても課税されることゝなるから、この場合も相続税、贈与税の回避の問題は生じない。しかして以上の結果は財産の提供者もしくはこれと特別関係あるものと当該法人との関係の親疎、実質支配の有無等によつて左右されるものでないこと、事の性質上自明である。

これに反し、出資持分の定めのない法人については異なる。すなわち、財産の提供によりかゝる法人を設立する場合、そのまゝでは財産提供の際右法人に対し相続税、贈与税を課税することができないものであり、右法人については出資持分がないため持分の移転の際に相続税または贈与税を課するということはあり得ず、また右財産は資本の払込として提供されるのであるから財産の無償取得を理由に法人に対し法人税を課すこともできず、結局財産の無償取得についてはなんら課税権を行使しえないわけである。従つて今右の如き財産の提供によつて法人の設立があるにかゝわらず、右法人がその贈与者もしくはその親族その他特別の関係ある者によつて依然として支配運営されているというような実情があるならばこれは右贈与者の個人有財産と択ぶところがないにかゝわらず、将来その者の死亡によつて事実上相続がなされるにかゝわらず、これに対し相続税を課し得ないことゝなり、あるいは親族その他特別関係者が法人に贈与された財産の利益を事実上享受しながら、この者につき贈与税等を課することができないことゝなるため、贈与者もしくは遺贈者の親族その他特別関係者の相続税の負担が不当に減少する場合を生じえないとはかぎらないからである。またすでに設立された出資持分の定めのない法人に対し財産の贈与または遺贈がなされた場合も、右法人と右贈与者遺贈者又はそれらの親族その他特別関係者との関係によつてはその相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果を生じ得ないとはいえないこと右と同様である。もつともこの場合右法人に対し財産の無償取得により生じた所得につき資産の増加を理由に法人税を課することもできるから、同一課税物件に対し法人税のほか相続税ないし贈与税を課税するとすれば、一種の二重課税の事態を生ずることゝなるから、このような場合にはさきに考慮した財産の無償移転に対する課税の一般的態度からみて現実には右相続税等の負担が不当に減少する結果となると認められることはまずないであろう。

しかし法人税は、当該事業年度における法人の所得をその課税の対象とするから、仮りに右法人に対し財産の贈与もしくは遺贈が行なわれたとしても、当該事業年度において損金(負債)が大であれば所得を生じないこともありえようし、また設立後であつても右法人が定款ないし寄附行為を変更し、資産の増加(資本の払込)として財産を無償取得するのならば、法人税の対象とはならないから、一定の場合は二重課税が起りうるということ自体から設立後になされた出資持分の定めのない法人に対する財産の提供につき法第六六条第四項の結果が生じ得ないものとし、ひいて出資持分の定めのない法人は同条項にいう法人に当らないとすることは相当でない。

以上の理由から法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」というその「法人」とは、少なくとも出資持分の定めのない法人を意味するものと解するのが相当である。したがつて一定の出資持分にもとずき構成員たる社員の利益を目的とする法人、換言すれば社員に対する利益の配当又は残余財産の分配を目的とする営利法人についてはたとえそれが交通、通信、報道、出版等の公益に関する事業を営むことを目的とするものであつても右に該当しないものといわなければならない。これに反し公益社団法人及び財団法人は、同条の「公益を目的とする事業を行う法人」に該当するものというべきである。けだし公益社団法人、財団法人は本来公益を目的とし営利を目的せざる法人であり、公益社団法人の社員は公益法人の性質上利益配当請求権や残余財産分配請求権を有しないから、財産上の権利としては、せいぜい社団の設備を利用する権利等が考えられるにすぎず、それを課税の対象としてとらえることは無意味であり、また財団法人は一定の目的に捧げられた財産を中心とし、これを運営する組織を有するものであつて構成員たる社員は存在しないから、財団法人については社員の出資持分ということを構想する余地は全くないからである。

そして右の解釈は、法第六六条第四項中の「法人税法第五条第一項第一号及び第三号に掲げる法人」と対比して考えれば一層明瞭となる。すなわち法第五条第一項第一号は、民法第三四条の規定により設立した法人の外日本赤十字社、商工会議所、社会福祉法人、宗教法人、学校法人等を掲げているものであるが、これらの法人はいずれも公益目的から国家的監督の必要上設立に際し許可主義がとられており、更に構成員たる社員がないか、もしくは構成員が存在しても利益の分配ということが考えられない点において特別法により設立される公益私法人と解せられるし、また同条第一項第三号にいう法人たる労働組合及び法人たる国家公務員または地方公務員の団体は同一の社会的地位にある者の間の相互扶助または共通の利益の増進を目的とするいわば公益法人と営利法人の中間に位するものであり、それは公共の利益とゝもに直接的には構成員の利益を目的とするものではあるがそのいずれもがそれらの組合又は団体の一員であることに財産上の利益がともなうものでないことは自明であつて、その地位の変動等について相続税又は贈与税の課税を考えることはできない。従つてこれらの法人に対する財産の提供において、提供者ないしその親族その他の特別関係者と右法人との関係いかんによつては贈与者又は遺贈者の親族その他特別関係者の相続税もしくは贈与税を不当に減少させる結果となることもありうることはおのずから諒解されるのである。

(三)  そこで次に財団たる医療法人が法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」に該当するかどうかについて検討する。

医療法人は病院又は診療所を開設経営することを主たる目的とし、これによつて医療事業を行うものであるところ、そもそも医療事業は、国民の健康保持のために不可欠なものであり、その業務は直接国民の生命の保全、身心の健康等公衆衛生に深いかかわり合いをもち、全体として国自身がこれに責任をもつものであつて、その故にこの事業は多くの点において国の監督規制を受け、事の性質上利益の追及を第一義とするものでないことは多言を要しないところである。従つてこれをひろくことばの通常の意味において公益を目的とする事業とよぶことはなんら誤りではない。しかしてすべての国民に必要最少限度の医療を確保するには、公的医療機関のみならず、民間医療機関の整備並びに充実強化がはかられなければならないのであるが、私人による病院又は診療所の建設、設備の改善等は資金難から多くの障害をともなうものであり、また個人の開業医の死亡にともなう医療事業の中絶等のため、病院等の経営維持に困難をきたす例がみられることから、資金の集積を容易ならしめるとともに、事業の永続性を確保するため私人の病院等に法人格を与える必要性が認められていたところ、医療事業に法人格を附与するに当り、これを商法上の会社とすることは、前記医療の非営利性という点から望ましいものではなく(医療法第七条第二項)、他方すべての病院が民法第三四条による公益法人たる資格を取得することも期待しがたいので、かかる医療事業の特殊性にかんがみ、医療事業については特別法による特別の法人制度、すなわち医療法第三九条に基く医療法人制度が設けられたものと解せられる。そして医療法が、医療法人は社団又は財団の形態をとるものとし(同法第三九条)、剰余金配当の禁止(同法第五四条)、設立、定款、寄附行為の変更に関する行政庁の認可(同法第四四条、第四五条、第五〇条)、決算の届出(同法第五一条)業務会計の報告(同法第六三条)、業務停止、設立認可の取消(同法第六四条、第六六条)解散、合併、残余財産の処分に対する行政庁の認可(同法第五五条ないし第五七条)等に関し種々の法的規制を加えていることは、医療法人の公益性を確保し、これが営利企業化することを防止するためと法人形態の社会的信用を確保するため、一定規模の設備の維持、充実、組織内容の公示、行政監督の徹底をはかる趣旨と解するのが相当である。したがつて医療法人はいわゆる営利法人ではなく、さりとていわゆる公益法人そのものでもなく、いわば両者の中間に位し、むしろ公益法人に類似した法人というべきであり、法第六六条第四項にいう「公益を目的とする事業を行う法人」たるに該当するものといわなければならない。

(四)  もつとも原告らは、医療法人が財団又は社団の形式をとつているのは、「資金蒐集」「事業の永続性」確保という医療法人制度制定の歴史に由来するものであつて、医療事業の公益性によるものではなく、医療事業は営利事業であると主張する。なるほど医療法人が「資金蒐集」「事業の永続性」確保のため法人格を認められた制度であることは前記のとおりであり、営利事業でもなく、利益配当をもたらすものでもない事業に通常資金の蒐集が期待しがたいことはいちおう是認しなければならないが、それはあくまで営利のため資金を利用しようとする場合についてであり、しからざる限り非営利事業に資金を集積することのあり得ることは周知のとおりである。事業の永続性はこれを法人とすることによつて個人の開業医がその死亡とともに事業を中断するが如きことのないようにするところに期せられるのであつて、事業の営利性にもとづくものではない。医療法人が、法律上非営利的な特殊法人として設立を認められたのは、医療に対する国民の伝統的な感情から医療事業を営利法人とすることが好ましくないのみでなく、前記のように、医療事業が国民の保健衛生上欠くことのできない公共性をおびていて、その性質上非営利的であるべきことに基くものにほかならない。もとより医療事業により収益をあげることは可能であり、医療事業も収益事業と認められることがありうるけれども(法人税法施行規則第一条の三第一項第三〇号。昭和三二年三月三一日政令第四六号((法人税法施行規則の一部を改正する政令))参照)公益法人等(法人税法第五条第一項)も収益事業を営むことはなんらその本質に矛盾するものではないのであるから、医療法人が収益事業を営むからといつて、そのことから直ちに医療事業を営利事業ということはできない。よつて原告らの右主張は理由がない。

原告らはさらに個人の医療事業は、相続税法上公益を目的とする事業ではないとして法第一二条第一項第三号、第二一条の三第一項第三号は適用されず、所得税法もこれを営利事業としているところ、これが法人形態に変ることにより法律上公益性を附与されることはありえないし、また法人税法は医療事業を営利法人と同様に扱つているから、これを相続税法上公益法人に類似した法人とすることは租税体系上の矛盾であつて許されないと主張する。しかし医療事業がひろく社会福祉への貢献を目的とし、公衆の日常生活にとつて欠くことのできない公益性をおびていて、本来非営利的性質を有する事業であることは前述のとおりであるから、医療事業を営む者は、法第一二条第一項第三号、第二一条の三第一項第三号においても「公益を目的とする事業を行う者」に該当するというべきである。ただ通常個人の開業医の財産が相続税法上の非課税財産としての取扱を受けることのないのは、たとえ個人の開業医が医療施設を相続または贈与により無償取得し、これを医療事業の用に供することが確実な場合であつても、一般にこれら条項の定める政令の要件をみたすことができないのであり、とくに相続税法施行令第二条但し書により同条第一号の事実を否定し得ることがほとんどまれであるためにほかならず、医療事業が公益を目的とする事業にあたらないからではないのである。

また所得税法第九条は、医業すなわち医療事業から生ずる所得を事業所得として規定しているが、所得税法の課税の対象となるべき所得は、一定の期間内において各人に帰属する経済的利益のすべてをいうから、医療事業が収益をあげうる以上、それから生ずる利益が所得税の対象たるべきことは当然といわなければならない。しかし前記のように、収益事業であることから直ちにこれを営利事業ということはできないから、医療事業から生ずる所得が事業所得として規定せられていても、そのことから医療事業を営利事業と解するのは相当でない。したがつて、医療法人が法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」とするならば、医療事業は法人格を取得することによりはじめて公益性が附与されることになつて矛盾であるとする原告らの主張は理由がない。

また公益法人等及び公益を目的とする事業を行う法人が公益目的遂行のために要する財源獲得の手段ないしは公益目的の実現として収益事業を行うことは、なんら右法人の性質と矛盾するものではないと解すべきこと前記のとおりであるところ、医療法人は、法人税法上非課税法人、公益法人等以外の一般の法人として課税上は営利法人と同様の取扱を受けているけれども、それは前記のとおり医療法人が収益事業を営むからにほかならず、医療法人が営利法人たる性質を有するからではない。また医療法人が営利法人と課税上同様の取扱いを受けているにしても、このことから当然医療法人の性格を営利法人と同じにみなければならないということもできない。したがつてもし医療法人が法第六六条第四項の「公益を目的とする事業を行う法人」に含まれるとしても、租税体系上矛盾を生ずるものということはできず、この点の主張も理由がない。

三、(財団たる医療法人については相続税等の負担が不当に減少することとなると認められる場合はあり得ないか)

次に原告らは、財団たる医療法人に対してなされる財産の贈与もしくは遺贈により、当該贈与者、遺贈者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になると認められるということは理論上ありえざることがらであるから、本件課税処分等は違法であると主張する。

しかし同条が前記のとおり、租税回避行為を防止するため、あらたな租税法律関係を設定する規定であることにかんがみると、右条項に該当する結果となるか否かは、当該法人と右贈与者遺贈者又はその親族その他特別関係者との関係、当該法人運営の実態等に照らして具体的に決せられるべきものである。

すなわち、たとえば法第六六条第四項掲記の法人に対し財産の贈与があつたにもかかわらず右法人の定款もしくは寄附行為の定め、又は右贈与者等の理事その他の役員としての関与等により、贈与者が従前どおり贈与にかかる財産の使用収益からの利益を享受しており、将来右贈与者の死亡によりその親族等相続人が事実上右財産上の利益の享受を承継することとなるような場合には、相続税の負担を免れることとなる。また贈与者自身は右法人の運営に関係せず、もしくは財産が遺贈にかかる場合でも、当該法人の定款もしくは寄附行為の定め又は右贈与者もしくは遺贈者の親族その他の特別関係者が理事等役員として関与することによつて実質上これらの者が現に右財産の使用収益から生ずる利益を享受しているような場合には、贈与税(法改正前は相続税)を免れることとなるものといい得るのである。これらはいずれも右法人への財産移転の過程を経ることによつて、しからざる場合に比し相続税等の負担を軽減するものといい得るのであり、このような場合いずれの段階をとらえて相続税または贈与税を課すべきかは一に立法上の政策に属するところであり、法第六六条第四項はすでに右財産の贈与又は遺贈のあつた段階においてこれをとらえ当該法人からこれを徴しようとするものに外ならないのである。もし法人に対する贈与又は遺贈があつても、定款又は寄附行為の定め、当該法人と贈与者遺贈者またはその親族その他の特別関係者との関係、その支配の状況、財産利用の実情等から見て当該財産が実質的にも右の者らの支配を脱し、これにその利益を享受せしめることがないような場合には、仮りに右財産の移転について相続税または贈与税を課する機会がないとしても、それは租税法上当然のことであつて、なんら相続税または贈与税の負担を不当に軽減する結果となるものではないのである。してみればその各具体的場合の実情いかんにより相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合のあること明らかであるから、原告らの右主張は理由がない。

そして医療法人に対し相続税又は贈与税を課する場合があるとしても、それは医療法人制度の立法趣旨となんら矛盾するものではない。なるほど医療法人制度は、一方において医療事業の永続性をはかる目的を有するものであり、従来個人の開業医による医療事業が相続税、贈与税の圧迫のため一代にして中絶することのあつたことは否定しえないが、医療法人が事業の永続性を一目的とするといつても、それがためにいかなる場合においても相続税又は贈与税を課さないこととしたものと解するのは相当でなく、とくに財団たる医療法人は相続税、贈与税を免れしめることによつて医療事業の永続性を確保せんとするものであるとするのは独断である。けだし仮りにいかなる医療法人に対してもそれが医療法人なるが故に相続税、贈与税を課しえないとするならば、個人の開業医は、医療事業の実態はそのままにしながら法人格を取得することによつて、容易に相続税又は贈与税を免れることができ租税負担の公平を害するのみならず、かような医療法人はたんなる形骸として租税回避のために利用せられるに過ぎなくなるからである。

さらに原告らは、税法上の行政罰(法第五一条ないし第五四条)及び刑事罰の制度により租税回避行為は規制しうると主張する。しかし法第五一条ないし第五四条は利子税及び加算税に関する規定であつて、本税に対する附帯税の賦課を規定するにすぎず、かかる規定や刑事罰で相続税または贈与税自体についての租税負担の公平がはかられるものではないことは明らかであり、また行政罰、刑事罰の制度があるからといつて法第六六条第四項に基く課税処分が違法となると解することはできない。よつて右主張も理由がない。

四、結論

以上説明したとおり、法第六六条第四項はなんら憲法に反するものでなく、財団たる医療法人は、同条項の「公益を目的とする事業を行う法人」に該当すると解するのが相当であり、財団たる医療法人に対する財産の贈与又は遺贈により、当該贈与者又は遺贈者の親族その他これらの者と法第六四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるかどうかは、当該具体的な場合の実情に即して事実の取調をまつてはじめて明らかになるものであつて、およそ財団たる医療法人については理論上いかなる場合においても法第六六条第四項が適用される余地はないとする原告らの主張は理由がないものといわなければならない。そして以上の諸点は、民事訴訟法第一八四条にいわゆる独立した攻撃防禦方法に関する争いであつて、これらの諸点についての原告らの主張はいずれも理由のないこと前記のとおりである以上、原告らの場合がはたして事実において法第六六条第四項に該当するかどうかを判断しなければ、原告らの請求の当否を終局的に決定しえないこと明らかである。したがつて当裁判所は前記の諸点について原告らの主張が理由がない旨の中間判決をするを相当であると認める。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅沼武 裁判官 時岡泰 裁判官小中信幸は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 浅沼武)

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